チョウチョウウオ科はスズキ目スズキ亜目に属する科で、世界中の温かい海域で120種類以上が確認されています。
チョウチョウウオは畑をチョウのようにヒラヒラと飛ぶことが由来と言われています。
英語で「Butterflyfish」と和名と同じようにチョウが由来になっています。(日本で見られない種類は〇〇バタフライフィッシュと呼ばれている種類も多いです。)
目次
チョウチョウウオ科(Chaetodontidae)
チョウチョウウオの仲間は暖かい海域のサンゴ礁・岩礁地帯で見られる種類が多いですが、水深300m以深で見られるような種類もいます。
見た目が派手で綺麗な種類が多いため、観賞魚としても人気の高い魚が多く、水族館でも多く展示されています。
葛西臨海水族園のニセフウライチョウチョウウオ
最大種はニセフウライチョウチョウウオで30cm近くまで成長します。
キンチャクダイ科とは近縁ですが、チョウチョウウオ科には鰓蓋にトゲがないことで見分けることができます。
チョウチョウウオ科はトリチクス期と呼ばれる頭部の骨が板状に発達し、兜をつけているかのような見た目をしている稚魚期間を過ごします。(このような稚魚はトリクチス幼生と呼ぶようです。)
この特徴はキンチャクダイでは見られず、同じスズキ目スズキ亜目ニザダイ亜目の魚にも見られます。
チョウチョウウオ科は学名で「Chaetodontidae」と呼ばれており、ギリシア語のChaite(=髪の毛)とodous(=歯)に由来しています。
これはチョウチョウウオ科の魚の口の中に毛のような歯が生えていることが由来となっているようです。
ハシナガチョウチョウウオとトゲチョウチョウウオ(両種とも目玉模様があります)
チョウチョウウオ科の魚にはアイ・スポットを呼ばれる目玉模様を持つ魚が多く、捕食者に対してアイ・スポットを頭部だと思わせることで逃げやすくしていると考えられています。(本物の目を見えにくくするためか目の部分に縞模様などが入っている種類が多いです。)
このアイ・スポットはチョウチョウウオ以外にも多くの魚で見られる防衛方法です。
チョウチョウウオの正面から撮影
また、サンゴ礁や岩礁地帯に生息していることもあり、複雑なサンゴの隙間などを泳ぐために扁平な体型をしています。
サンゴの隙間などにいる小動物を食べるものは特に吻が尖っています。
食性によるチョウチョウウオ科の分類
チョウチョウウオの食性は種類によって異なり、大きく分けると3つに分類することができます。
主食となる餌によって形状にも特徴があります。
・雑食性のチョウチョウウオ
小型の甲殻類などの無脊椎動物、サンゴのポリプやコケや藻類など幅広く食べます。
雑食性のチョウチョウウオの代表的な種類
アケボノチョウチョウウオ、アミチョウチョウウオ、オニハタタテダイ、チョウチョウウオ、チョウハン、ニセフウライチョウチョウウオ、フエヤッコダイなど
葛西臨海水族園で野菜を食べるユウゼン(尾鰭後半の縁が黄色)
雑食性のチョウチョウウオは吻が尖っているという共通点があります。
サンゴや岩の隙間にいる甲殻類や藻類などを食べるために突き出た吻を持っています。
雑食性で食べるものが幅広いため、他の食性の種類に比べると飼育しやすいと言われています。
・ポリプ食性のチョウチョウウオ
サンゴのポリプを主食としているグループです。
ポリプ食性のチョウチョウオの代表的な種類
ウミヅキチョウチョウウオ、トノサマダイ、ミカドチョウチョウウオ、ミナミハタタテダイ、ゴールデンバタフライフィッシュ、レインフォーズバタフライフィッシュ など
葛西臨海水族園のゴールデンバタフライフィッシュ
見た目の特徴としては雑食性のチョウチョウウオに比べ、サンゴの隙間にいる甲殻類等を食べないためか吻が尖っていない種類が多いです。
ポリプ食性は餌付けが難しく飼育難易度が高い種類が多いようです。
そのためか、展示施設数が少ない種類が多いです。
・プランクトン食性のチョウチョウウオ
名前の通り、プランクトンを主食としているグループです。
プランクトン食性のチョウチョウウオの代表的な種類
雑食性とポリプ食性の中間の吻の尖り具合をしています。
大洗水族館のカスミチョウチョウウオ
プランクトンを主食としているため、ポリプ食性の種類と比べると飼育の難易度は易しいようです。
食性でグループ分けすると最も数が少ないのはプランクトンを主食としているグループになります。
食性で大きく3つ分けることができますが、サンゴのポリプを食べるのでチョウチョウウオはサンゴと一緒に飼育することができないと言われています。(水族館で展示されているものはほとんどが偽物のサンゴです。)
深海に生息しているウラシマチョウチョウウオなど生態が分かっていない種類もいます。
チョウチョウウオ科の記事一覧
チョウチョウウオ科に属する魚で、本ブログで紹介したことがある種類を一覧で紹介しています。
画像をクリックすることで個別のページに遷移することができます。
・チョウチョウウオ科関連の記事
ハタタテダイとツノダシの見分け方とハタタテダイ属の種類の見分け方を紹介しています!
チョウチョウウオ科の分類
チョウチョウウオは11属に分類され、全部で120種類以上が確認されています。
チョウチョウウオ属が最も多く、全体の6割以上を占めています。
チョウチョウウオ属(Chaetodon)
最も多くの種類が分類されており、チョウチョウウオ科最大の属となっています。
水族館で展示されているチョウチョウウオの多くがこの属となっており、吻が突き出た五角形の形をしています。
左側がすみだ水族館のユウゼン、右側が葛西臨海水族園のニセフウライチョウチョウウオ
・チョウチョウウオ属の代表的な種類
ニセフウライチョウチョウウオ
アケボノチョウチョウウオ など
ハタタテダイ属(Heniochus)
ハタタテダイ属に属する種類は8種類ですが、そのうち7種類を国内の水族館で見ることができます。(見られないのはインディアンバナーフィッシュという種類です。)
ハタタテダイ属は背鰭の棘条が長く伸びるのが特徴です。
大洗水族館のムレハタタテダイ
・ハタタテダイ属の代表的な種類
ミナミハタタテダイ
オニハタタテダイ など
ハシナガチョウチョウウオ属(Chelmon)
ハシナガチョウチョウウオ属に属する種類は3種類のみとなっています。
ハシナガチョウチョウオは変わった見た目から観賞魚としても人気が高く、愛好家の間では属の学名「Chelmon」からチェルモンと呼ばれて親しまれています。
チョウチョウウオ科の中でも独特な形状をしています。
葛西臨海水族園のハシナガチョウチョウウオとレインフォーズバタフライフィッシュ
・ハシナガチョウチョウウオ属の代表的な種類
最も一般的なハシナガチョウチョウウオ属
マージンドコーラルフィッシュ
オーストラリア北西部~ヨーク半島付近まで生息しています。
ミューラーズコーラルフィッシュ
オーストラリア北部に生息
国内の水族館で見られるのはハシナガチョウチョウウオのみです。
タキゲンロクダイ属(Coradion)
タキゲンロクダイ属は3種類が確認されています。
この種類は白と茶色の縞模様をしており、体型はハシナガチョウチョウウオ属の吻が突き出ていないような形をしています。
国内の水族館で見ることができるのは、タキゲンロクダイのみです。
・タキゲンロクダイ
・キスジゲンロクダイ
フエヤッコダイ属(Forcipiger)
フエヤッコダイ属に属する種類は3種類となっています。
日本で見られるのはほとんどがフエヤッコダイですが、小笠原諸島などではオオフエヤッコダイという種類も見ることができます。
水族館で展示されている種類はフエヤッコダイのみとなっています。
チョウチョウウオの仲間の中でもハシナガチョウチョウウオ属と並び吻が特に突き出た種類が属しています。
サンシャイン水族館のフエヤッコダイ
フエヤッコダイ属の代表的な種類
・オオフエヤッコダイ
国内で見られるのはほとんどがフエヤッコダイで、オオフエヤッコダイは吻がフエヤッコダイよりも突き出ているので見分けることができます。
カスミチョウチョウウオ属(Hemitaurichthys)
カスミチョウチョウウオ属に属する種類は4種類となっています。
チョウチョウウオの仲間には珍しく大きな群れを作ることがあります。
(カスミチョウチョウウオの由来は水中が霞んで見えなくなるくらい大きな群れを作ることからきているようです。)
大洗水族館とカスミチョウチョウウオ
カスミチョウチョウウオ属の代表的な種類
・トンプソンチョウチョウオ
・ブラックピラミッドバタフライフィッシュ
日本で見られる種類はカスミチョウチョウウオ、トンプソンチョウチョウウオで、カスミチョウチョウウオは幅広い地域で見ることができます。
トンプソンチョウチョウオは小笠原諸島や南大東島などで見られるようです。
カスミチョウチョウウオは多くの施設で展示されているチョウチョウウオです。
カスミチョウチョウウオの他にはブラックピラミッドバタフライフィッシュという種類が「しまね水族館」で展示されているだけです。
テンツキチョウチョウウオ属(Parachaetodon)
テンツキチョウチョウウオ属は2種類が確認されています。
国内で見られるのはテンツキチョウチョウウオオのみです。
国内の水族館では名古屋港水族館としまね海洋館にてテンツキチョウチョウウオが展示されています。
テンツキチョウチョウウオ属の代表的な種類
・テンツキチョウチョウウオ
チョウチョウウオの仲間としては珍しく、砂底の環境に多く見られるようです。
ウラシマチョウチョウウオ属(Prognathodes)
ウラシマチョウチョウウオ属は11種が確認されています。
ウラシマチョウチョウウオはチョウチョウウオ科の中でも深い水深に生息する種類で300mを超える水深でも見つかっています。
深海に生息しており、確認されている数も少ないためかウラシマチョウチョウウオ属を展示している水族館はありません。(日本近海ではほとんど目撃例もないようです)
ウラシマチョウチョウウオ属の代表的な種類
・ウラシマチョウチョウウオ
ウラシマチョウチョウウオ属に属する種類は生態がほとんど分かっていません。
Amphichaetodon属
Amphichaetodon属には2種類が確認されており、属名が学名のままのことから分かる通り日本で見られる種類がいません。
Amphichaetodon属に属する種類
・Amphichaetodon howensis
オーストラリア周辺に生息
・Amphichaetodon melbae
Johnrandallia属
Johnrandallia属は1種類が属しています。
葛西臨海水族園ではJohnrandallia属のバーバーフィッシュを展示しています。
Johnrandallia属に属する種類
・バーバーフィッシュ(Johnrandallia nigrirostris)
バーバーフィッシュはカリフォルニア湾~パナマ湾の岩礁やサンゴ礁で見られます。
バーバーフィッシュはホンソメワケベラのように他の魚についている寄生虫などを食べる「クリーナーフィッシュ」として知られています。
他の魚を掃除することから、バーバーフィッシュと呼ばれているようです。(バーバーは日本語に訳すと理容師です。)
Chelmonops属
Chelmonops属は2種類が確認されています。
国内で見られる種類はいませんが、極稀に観賞用として流通することがあります。
Chelmonops属に属する種類
ウエスタンタルマ(Chelmonops curiosus)
イースタンタルマChelmonops truncatus)
どちらもオーストラリア周辺に生息しており、生息地の西と東で名前が付けられています。
ウエスタンタルマの方が生息域が狭いようです。
日本近海で見られるチョウチョウウオ
日本近海で見られるチョウチョウオは50種類前後と言われており、国内で見られる種類はほとんどが水族館で展示されています。(ウラシマチョウチョウウオなどの特殊な種類は除く)
日本近海で見られる代表的な種類を何種類か紹介します。
・トゲチョウチョウウオ
しながわ水族館のトゲチョウチョウウオ
トゲチョウチョウウオは背鰭の後端から細長く糸状に伸びているのが由来となっています。
トゲチョウチョウウオはチョウチョウウオの中でも多くの水族館に展示されている種類です。(ニセフウライチョウチョウウオの次?)
・チョウハン
しながわ水族館のチョウハン
チョウチョウウオの仲間でも変わった模様をしている種類です。
英名で「Raccoon butterflyfish」と呼ばれており、アライグマのような頭部の模様が由来になっています。
葛西臨海水族園のレッドシーラクーンバタフライフィッシュ
紅海付近にはチョウハンに似ているレッドシーラクーンバタフライフィッシュがいます。
チョウチョウウオは見た目が似ている種類も多くいます。
・ユウゼン
すみだ水族館のユウゼン
ユウゼンは小笠原諸島の固有種と言われています。(伊豆などでも見られるようです)
名前の由来は友禅染で、一見地味なチョウチョウウオですが、鱗を細かく見ると非常に綺麗な見た目をしている種類です。
国内の水族館とチョウチョウウオ
チョウチョウウオの仲間は綺麗な見た目から多くの水族館で展示されていますが、その中でもトゲチョウチョウウオは最も多くの水族館で見られるチョウチョウウオです。
チョウチョウウオやフウライチョウチョウウオなども多くの水族館で展示されています。
チョウチョウウオを観察できるオススメの水族館
私が訪れたことがある水族館から、チョウチョウウオを観察するのにオススメの水族館を紹介していきます。
珍しいチョウチョウウオを多く展示している水族館や多くの種類を展示している水族館を優先的に書いています。
葛西臨海水族園とチョウチョウウオ
葛西臨海水族園は他の水族館では展示されていないマイナーな種類が多く展示されている水族館です。 これはチョウチョウウオの仲間でも同じで他の水族館ではほとんど見られない魚を見ることができます。
JAZA加入の施設のうち葛西臨海水族園でのみ飼育されているものが
フォーアイバタフライフィッシュ、サウスアフリカンバタフライフィッシュ
の2種がいます。
ハワイ沿岸水槽で展示されているミレットシードバタフライフィッシュ
それ以外にも
レッドシーラクーンバタフライフィッシュ(2)、ミレットシードバタフライフィッシュ(2)、レインフォーズバタフライフィッシュ(2)、レッドシーバナーフィッシュ(2)、ヤリカタギ(2)、ゴールデンバタフライフィッシュ(3)、ユウゼン(4)、シチセンチョウチョウウオ(5)、カガミチョウチョウウオ(6)
といった他ではあまり見られない種類も展示されています。(2020年7月時点での調べ、バックヤードで飼育されている場合も含まれるので展示されているかは事前にご確認ください。)
※()の中はJAZA加入施設のうち展示している施設の数
葛西臨海水族園はチョウチョウウオだけではなく、他の魚も他の施設では見られないような珍しい魚を展示しています。
魚が好きな方は是非訪れてみてください!!(もちろん、マグロ大水槽も大迫力です!)
サンシャイン水族館とチョウチョウウオ
葛西臨海水族園が都内で最もレアなチョウチョウウオを展示している水族館だとすると、サンシャイン水族館は都内で最も多くの種類のチョウチョウウオを展示している水族館となります。
その多くがサンシャインラグーン水槽というサンシャイン水族館最大の水槽の中で展示されています。
上の画像のようにチョウチョウウオが群れになって舞っている姿を観察することができます。
この水槽だけで十数種類のチョウチョウウオを観察することができます。 (1つの水槽同時に見られる種類数としても都内で断トツの1位です。)
サンシャイン水族館でも他ではあまり飼育されていないチョウチョウウオを見ることができます。
珍しい種類のみ箇条書きにすると…
ミカドチョウチョウウオ(4)、バージェスバタフライフィッシュ(4)、コーラレバタフライフィッシュ、レッドシーラクーンバタフライフィッシュ(2)、ヤスジチョウチョウウオ(2)、ゴールデンバタフライフィッシュ(3)
※()の中はJAZA加入施設のうち展示している施設の数
また、ハタタテダイの展示数が多い水族館で
の4種を観察することができました。(2020年1月時点)
ハタタテダイの仲間は見た目が似ている種類が多いので、是非見比べてみてください。
ここまで
最後までお読みいただきありがとうございます。
ポリプとは???
私たちがサンゴと呼んでいるものは、正しくはサンゴという小さな生き物の集合体で、1つ1つはとても小さいです。
そして、ポリプとは1つ1つの小さなサンゴが持っている構造のことを指します。